2012年は野心を持った多くの挑戦者がIT分野でのスタートアップを果たした。華々しいゴールを飾るものもいれば、もがき苦しみ、道半ばに志を諦めたものもいる。


 ちょうど1年前、CNET Japanでは国内屈指のインキュベーターやキャピタリストによるトレンド予測記事を掲載したが、その中に登場した「nanapi」は大きく躍進し、ステルスでサービスを展開していた「Tokyo Otaku Mode」も一躍脚光を浴びた。さらに「LINE」はコミュニケーションサービスの覇権をにぎりつつある。


 では2013年のIT業界にはどういった動きがあるのだろうか。CNET Japanでは国内インキュベーター、キャピタリストにアンケートを実施し、16社17人から回答を得るた。今回は前編として、インキュベーターやシード、アーリーステージの投資を手掛けるベンチャーキャピタル(VC)8社の回答を紹介する。後編は12月31日掲載の予定だ(紹介は五十音順)。


 なお質問は次の2つ。「質問1」は「2012年の企業支援、投資環境を振り返ってポイントとなる『キーワード』と、その理由」。「質問2」は「2013年を占う上で重要なサービスを(1)国内(2)海外で1つずつ」とした。


インキュベイトファンド 代表パートナー 本間真彦氏


質問1:キーワードは「他社の先を行く」です。支援先のポケラボは2012年1月に新経営体制でスタートし、スマートフォン特化戦略へシフト。そして9月に大型の資本提携と大きく舵を切りました。スマートフォンが普及期に入り、ネットビジネスの競争環境は今までと大きく変わりました。環境変化を察知し、他社に先駆けて戦略の舵を切っていかなければスタートアップは勝ち残れません。投資家と経営者が先手先手を打って、環境変化をチャンスに変えられるか「決断」が重要な1年でした。


質問2:国内は「ORIGAMI」です。まだステルス中の企業ですが、スマートフォン特化のコマースプラットフォームを1月にリリースします。北米ではPinterest、Foursquare、FabといったソーシャルメディアがECを開始しています。今までのECは、買う商品が決まっていて、検索して安値で購買というモデルでした。しかしすでにソーシャルメディアの比重が検索に対してこれだけ上がってきた今後、ソーシャル、スマホ、リアルを軸に新しい購買のチャネルができるだろうと考えています。


 海外は「Uber」です。Uberは個人タクシーを束ねて彼らに決済・顧客管理アプリを提供しています。ユーザーはスマホからそのタクシーの予約や決済、利用管理が可能です。通常その場限りでユーザーに選択され、現金で決済されているような商売を、ネット予約、顧客会員化、決済・顧客管理までできるようにしているところが面白いです。日本でもリアルのサービスをEC化することで業界構造が大きく変わる、そんなスタートアップの創出支援に挑戦したくなる事例です。


インキュベイトファンド 代表パートナー 和田圭祐氏


質問1:キーワードは「新陳代謝」です。振り返ってみれば、業界全体でもM&Aや大きな人事変更、ピボットなどが活発だったと思います。スマートフォンやソーシャルなどの新しいトレンドを背景に、これまでに挑戦して成長してきた企業や個人が、自ら大胆に組織や戦略の刷新を仕掛けていくダイナミズムを感じた1年でした。業界全体でもっと加速していけばいいと思います。


質問2:国内はスマートエデュケーションの「おやこでリズムえほん」です。IVSのLaunchPadで優勝してご存知の方も多いと思います。知育という魅力的なテーマで、タブレットデバイスを主戦場に、顧客の満足度をしっかり売上につなげている事例です。事業テーマ、デバイス、マネタイズを考える上で、スタートアップにとって非常に参考になる成功事例ではないでしょうか。


海外は「betable」です。オンラインカジノの運営に必要な仮想通貨の決済や、賭け金処理のAPIを提供するプラットフォームです。ロンドンのスタートアップで、英国のGambling Commissionからのライセンスを獲得しており、参加デベロッパーへの合法的な運営を保証しています。社会的な意義を見いだせるかどうかの意見は分かれそうですし、各国の法規制の違いなどの難しさはあるものの、スマートフォンがグローバルに浸透していく中でソーシャルゲームと同じ爆発力の高いテーマなのではないかと考えました。


Open Network Lab(Onlab) 取締役 前田紘典氏


質問1:キーワードは「エンタープライズ」です。2010年と2011年はマネタイズが難しいソーシャル系サービスが増加して資金調達をしましたが、その後伸び悩んでコマースやエンタープライズにピボットする動きをみせました。2012年のスタートアップもエンタープライズ向けが多く、北米でもこの傾向は顕著で、SAPがヒューマンリソースマネージメントのSuccessFactorsを34億ドルで買収したり、NetSuiteといったERPソフトの上場会社の株価が1年で60%増加したりするなど、非常にパフォーマンスが高いです。

質問2:国内は女性向け古着マーケットプレイスの「フリル」です。モバイルコマースは日本でも昔からあったのですが、スマートフォンに特化したものにはまだまだこれからさまざまなイノベーションが起こると予想されます。2013年はスマートフォンコマースがブームになる年でしょう。フリルはその象徴的な存在になると思います。


 海外は「Funders Club」です。北米だとSecond MarketやJOBS Actなどで、一般人が未公開株を簡単に買えるようになりつつあります。これはスタートアップにとって新しい資金源にもなるし、ファイナンシャルマーケットにとっても取引できるエクイティタイプが増えることになります。Funders Clubは超一流のチームが主導しており、このトレンドにおけるリーダー格のサービスになると予想します。


KLabVentures 代表取締役社長 長野泰和氏


質問1:キーワードは「CVC」です。2012年はYJキャピタル、KDDI、ドコモ・キャピタル、グリーベンチャーズ、IMJインベストパートナーズ、KLab Venturesに代表されるようなCorporate Venture Capital(CVC)といわれる事業会社のVC事業の新規参入が大きな潮流となった年でした。


 これらのCVCは事業会社のリソースを活かしてのハンズオン支援を特徴に掲げており、スタートアップ業界としては資金調達の選択肢のバリエーションという意味でも非常によい潮流であると考えています。


 この流れを加速させるためには、CVCから投資を受けたベンチャーが2013年に更なる成長を遂げることが必要となります。その意味で事業会社によるスタートアップ投資が日本のベチャー投資においてムーブメントになるか否かの勝負の年といえるでしょう。


質問2:国内は「tixee」です。2012年はスマーフォンの普及が加速しました。2013年は生活インフラとして当たり前のものとなり、あらゆるサービスがスマートフォン前提で構築される年となるでしょう。


 tixeeは購入から発券、入場管理まですべてをスマートフォンで完結できるソーシャルチケッティングサービスであり、スマートフォンを前提としたサービスの代表銘柄と考えています。2013年はあらゆるビジネスシーンでスマホが既存ビジネスにイノベーションを起こすと予想されるので、そのケーススタディとして注目に値するでしょう。


 海外は「Square」です。スモールビジネスへのインパクトの大きさという意味で、モバイル決済サービスのSquareの躍進に注目しています。


 Twitterを創業したJack Dorsey氏がCEOを務めるなど話題に事欠かないSquareですが、2012年8月にはスターバックスに全店導入され、2500万ドル以上のシリーズDファイナンスを実施するなど、足場を固めています。決済サービスのイノベーションは他のビジネスに与える波及効果も大きく、一般的な決済手段として普及すれば、Square前提で事業を構築する起業家も出てくるかもしれません。このようにスモールビジネスに大きな変革を起こす可能性や日本への進出も含めて注目したいサービスと考えています


KDDI 新規事業統括本部 新規ビジネス推進本部 戦略推進部長 江幡智広氏


質問1:キーワードは「シードアクセラレーター」です。海外のY combinator、500 Startups等の動きに並び、日本でもシードアクセラレーターの活動が本格化した1年であったと思えます。起業家支援プログラムにとどまらず、投資活動も活発となり、起業しやすい環境にはなったと思います。一方、このような起業家にとっての「次のステージ」での事業面、資金面でのパートナはいまだ不足していることは課題です。


質問2:Open OS上では国内、国外という切り分けはないと感じていることを前提に2つ挙げると、1つはインスタントメッセンジャーです。「LINE」「カカオトーク」「WhatsApp」などがコミュニケーションをベースとした新しいプラットフォームを築きつつあります。欧州等では、一部通信キャリアが自らサービスの提供を始めています。

 もう1つはCtoC系サービスです。旅行や宿泊、プログラム開発、デザイン開発など、さまざまな分野でクラウドソーシングの環境ができつつあります。それにあわせて利用者の動きも出てきています。