■ ベンチャーとスタートアップの違い


 グーグルを辞めて起業し、そのわずか1年4ヵ月で保有株式を売却――。インターネット業界のビジネススピードが速いのは百も承知だが、それにしてもの“早業”だ。

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 フェイスブック上で、ランチの相手をマッチングするサービス、ソーシャルランチ。同サービスを運営するシンクランチの福山誠社長と上村康太副社長に、グーグルをアッサリ辞め起業した理由と、その後、株式売却した動機などについて聞いた。


 最近、起業することを「ベンチャー」と呼ばずに「スタートアップ」と呼ぶことが多くなった。シンクランチは、中でも最注目の「スタートアップ企業」との呼び声が高い。


 ベンチャーとスタートアップ。一体、両者は何が違うのか? 


 シンクランチの上村康太副社長は、「ベンチャー企業は会社を作るために起業する。一方、スタートアップはビジョンやアイディアを実現するために立ち上がるイメージ」だと解説する。そこへいくと、やはり2人は完全に「ベンチャー起業家」ではなく、「スタートアッパー」だ。


 同社の福山誠社長も、「アイデアはあっても、フリーターでカタカタやっているだけでは、ビジネスになりません。アイデアをカタチにしたいならビジネスをやるしかないから、起業しただけ」と力みがない。欲しいのは、起業家だの社長だのといった肩書や名声、そして上場益など巨万の富ではない。自分たちの作ったサービスで世の中を変えてやるとも思っていない。


 「小さな変化で、人に幸せは生み出せる。そんなチャレンジをしていきたい」(上村氏)というのが、働く動機だ。 同社が運営するソーシャルランチの事業内容は、至ってシンプルだ。簡単に言えば、ランチタイムを利用して、異業種交流を深めるサービスである。


 仕組みはこうだ。まず、「いつものランチ仲間」がフェイスブック上でペアを組む。そして、いつどこで、ランチしたいと要望を書く。すると、ソーシャルランチ側から、「こんな相手とランチしてみては?  」という提案が届く。その相手に興味を持ったら、ランチ申請を送り、許可されれば、「ソーシャルランチ」が成立するという流れだ。


 福山氏は、このビジネスアイデアをグーグルに入社する前、DeNAでアルバイトしていた学生時代に思いついた。


 「学生にとっての昼ごはんって、ただお腹を満たすものでしかないけれど、社会人にとっての昼ごはんは打ち合わせや懇親のためのいわばコミュニケーションツール。この儀式が毎日、お昼に一斉に行われ、それがもはや“文化化”している。ここにインターネットサービスが食い込んだら面白いと思っていました」


 すでにビジネスの原案は念頭にあったが、当時の日本ではフェイスブックが一般化しておらず、ランチ相手の実名や会社名を証明するツールがなかった。そのうえ、事業化する資金も知識もなく、アイデア実現は先送りするしかなかった。それに何と言っても、エンジニアなら誰でも憧れる、グーグルへの就職が決まっていたのだ。


■ グーグルを辞めることに後悔は? 


 2009年4月に入社したグーグルは、やはり理想的な職場だった。「不満に思っている人がまずいない会社」(福山氏)で、居心地は最高。入社早々活躍することもできた。


 「営業マンが個々で、エクセルやパワーポイントをいじって商談用資料を作るのは非効率だなと思い、ボタン一つ押せば、データが出てきてパワーポイントに落とし込まれるシステムを開発しました。それは、グーグル全世界のオフィスで使われるようになりました」


 相方の上村氏と出会ったのも、ここグーグルでだ。


 「同期で部署も同じだったので、仲が良かった。そこで、福山に『こんなサービスを作ってみたんだ』とソーシャルランチのアルファ版を見せられて、面白そうだなと思いましたね」(上村氏)


 プラットフォームとなるフェイスブックも普及してきた。ついては、なんとか事業化したい――二人はどちらが誘うともなく、起業するという結論に至った。そうは言っても、あのグーグルを辞めるのはもったいないとは思わなかったのか? 


 「正直、思いました(笑)。でも、ネットの世界は移り変わりが激しくて、今あるものもすぐなくなる世界。ずっとこの世界にいるからには、グーグルよりもっと険しいところに踏み出すことが必要だなと思っていました。やるなら20代の今だろうと」(上村氏)