新横浜の企業「リプロセル」、山中教授の論文に登場/神奈川

 人工多能性幹細胞(iPS細胞)を開発し、2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥京都大教授。開発成功を報告した07年の論文に、横浜市内の企業の名前が記されている。港北区新横浜に本社・研究所を置く「リプロセル」。万能細胞ビジネスのトップランナーとして知られるベンチャー企業だ。


 横山周史社長(45)は「創薬からテーラーメード(個別化)医療、再生医療など、領域はさまざまな分野に広がっている」と、iPS細胞技術が拓く新しい医療技術の可能性を熱っぽく語る。


 主力事業は、細胞増殖の栄養素となる培養液の製造販売だ。iPS細胞と同じ万能細胞の胚性幹細胞(ES細胞)の研究を積み重ね、蓄積してきた技術・経験を応用した。山中教授による世界初の偉業も同社の培養液によって成し遂げられた。


 新薬の実用化試験でのiPS細胞技術活用にも力を入れる。


 iPS細胞製品として注目を集めるのがヒトのiPS細胞に由来する心筋細胞、幹細胞、神経細胞だ。創薬の過程でヒトと同じ細胞を使って安全性・有効性を確かめることができれば、「長期間にわたる動物実験に替わり、効果的かつ安全な新薬を短期間で患者の元に届けることが可能になる」と横山社長。


 例えばアルツハイマー病。有効な治療法がないのは、患者の脳から神経系細胞を取り出すことができず病態がつかみにくいからだ。「iPS細胞を使えば、皮膚から採取した細胞を加工して患者の脳に近い神経細胞を作ることができる」。病態モデルの作製が新薬開発への突破口になった。


 研究成果を社会に広く還元していくには、高品質なiPS細胞を安定的に大量供給する技術基盤の整備が不可欠。その実現に向け、国の支援のもと、産学連携による複数のプロジェクトが進行中だ。


 病気の克服という課題は世界共通。成長が続くアジア地域も早晩、高齢化社会を迎える。横山社長は言う。「日本生まれの技術で次世代の薬や医療事業を創造し、世界中の人々に届けたい」。横浜発オンリーワンのiPS細胞製品の開発が加速している。

東大カリスマ教授の「教育・就活・メディア論」

今、最もホットな分野のひとつである人工知能。人工知能とウェブに関する最先端の研究を進めるのが、松尾豊東京大学准教授だ。キュレーションサービスGunosy開発者も、松尾研究室出身。前回に引き続き、連載「キャリア相談」でおなじみの塩野誠氏との対談を通して、教育論・大学論・メディア論を語りつくす。 ※前編:東大カリスマ教授のハック術

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■ すべての教育はトレードオフ


 塩野:指導している学生のクオリティは上がっていますか? 


 松尾:いや、そこがけっこう難しいところです。「教育はすごいトレードオフだなあ」と思います。こちらがやってあげるじゃないですか。そうすると、確かに業績は出る。でも本当に身に付いたかというと、実際はそうでないこともある。放っておくと、なかなか業績が出ないのですね。まあ、そうした中でいろいろ試行錯誤すると、パワーアップするわけですが。


 塩野:構うのと放置する、そのバランスが難しいですよね。


 松尾:教育は、ほとんどのアクションがその人にとってよい面と悪い面の両方があると思います。


 塩野:なるほど、すべてのアクションはトレードオフであると。それは会社の新人教育ともまったく一緒ですよね。どこの段階で放置して、ミスったら俺が責任取るからって言えるかという。毎回、責任を持ってしまうと、甘えてダレてしまう。難しいですよね。


 松尾:あと最近思うのは、どうやったら仕事の組み立て方を教えられるのかな、ということ。うちの研究室だと、エンジニア志向、理系の人が多いのですね。理系の人はどうしても問題を区切ってしまう。「自分が解くのはここで」ということが快適になっている。


 塩野:最初に定義付けしないと、はみ出てしまいますからね。


 松尾:その定義付けをするときに、それ以外の要素はどうなるのかを考えたうえでならいいのですよ。ところが、そこはあまり考えずに、「僕が解く問題はこれです」と言ってしまう。でも、「それって、そもそも大事なんだっけ? 」というふうに、後からちゃぶ台返しになってしまう。


 それから、やり方がわかりませんというのも多い。わからないというのは、そりゃ人類だいたい何でもわからないので(笑)。その中で、自分で調べるとか、人に聞くとか、いろいろあるわけですよね。その中の、どの選択肢を取るかっていうことだと思いますが、それがなかなか伝わらない。

iPS細胞の臨床研究「絶対成功させたい」−新春インタビュー・高橋政代さん

 理化学研究所の発生・再生科学総合研究センター(神戸市)の研究グループは昨年夏、iPS細胞(人工多能性幹細胞)を使った世界初の臨床研究に着手した。新年に入り、研究は新たな局面を迎える。iPS細胞から作製した網膜色素上皮細胞の移植手術が今年夏にも、同市内の先端医療センターで行われるからだ。同グループでリーダーを務める高橋政代さんは、「絶対に成功させる」と決意を新たにする。【聞き手・敦賀陽平】


―昨年はどんな年でしたか。

 無事、国に研究計画を承認してもらい、一つの到達点に来た。これまでの研究が節目を迎えたという気持ちです。ヒトのiPS細胞ができた07年に、「5年で臨床研究をする」という話をしていました。ちょうど5年後に計画の申請までこぎつけたので、約束は果たせたかなと思っています。


―お仕事以外ではいかがでしょうか。

 子どもたちが大学に進学して、今は夫婦2人なので、「ここはどうなっているんだ」とか、家でも仕事の話ばかりしています(笑)。主人(京大iPS細胞研究所・高橋淳教授)も臨床研究の準備をしているので。本当に24時間、仕事のことを考えていますね。


―この5年間で、iPS細胞をめぐる状況は様変わりしました。

 5年前のシンポジウムで、「わたしたちが最初に臨床研究をやる」と言った際、「たぶん法律が足かせになる」という話をしていたら、昨年11月に「再生医療安全性確保法」と「改正薬事法」が成立しました。これは本当に想定外の出来事でした。(京大教授の)山中伸弥先生のノーベル賞の受賞も関係しているかもしれません。


―山中先生とは、頻繁に連絡を取っているのですか。

 全然取っていないです。お忙しい方ですので、めったに会うことはありません。最後に話したのは昨年の夏ごろですかね。研究の方針を報告しました。


■安全性に自信、課題は細胞作製の時間とコスト

―移植手術で使用する網膜色素上皮細胞を作製するために、自らベンチャー企業を立ち上げました。

 色素上皮はすごく安全なので、わたし自身は5年前から、臨床研究ができると確信していました。標準的な治療にするためには治験が必要です。シンポジウムなどで、企業の方々に何度もお話ししましたが、やろうという方はいらっしゃらなかった。「iPSが5年後に使えるようになる」と言っても、誰も信じてくれなかったんです。


 米国では、ES細胞(胚性幹細胞)を使った治療をどんどん始めようとしていた。それでは遅いので、自分で会社をつくろうと思い立ち、社長さんになる人を探していたら、ちょうどいい方が見つかったので、2年半ほど前に設立しました。今は利益相反の問題があるので、役職などは全部辞めて、「サイエンスアドバイザー」という形で携わっています。


―治験の対象となる患者は6人ということですが、現在、どのような状況ですか。

 具体的なことはお答えできませんが、患者さんを選定している段階です。6例ということなので、最も条件の合った方に絞ろうと思うと、何百例の中から1例を選ぶような形になります。臨床研究をスタートさせると言った時から、たくさんのお問い合わせを頂いていますが、ほとんどは違う病気の方でした。郵送してくださる方もいます。網膜の再生というと、目の見えない方が見えるようになるというイメージを持ってしまう。一縷の望みを託して問い合わせてこられた方に、お断りするのはつらいですね。


―今後の臨床研究では、どのような点が課題になるのでしょうか。

 これまでの実験の積み重ねがあるので、細胞の安全性には自信を持っています。がん化の危険性もほとんどないでしょう。次の課題は、細胞を作る時間やコストです。移植で使用する網膜色素上皮細胞は、現在のわたしたちの施設では年間2人分ぐらいしか作れません。そこがネックになっているので、もっとたくさん作れるようにすることが課題です。手術の合併症の心配はありますが、それは普段やっている眼科の手術と同じこと。必ず数パーセントのリスクは伴います。ただ、これはiPS細胞の問題ではありません。


―他の疾患で臨床研究を行う予定はありますか。

 網膜色素上皮細胞は、別の病気にも応用できます。シート状ではなく、ばらばらの細胞で移植するという方法もあるので、そういう形で拡大させていこうと思っています。既に臨床研究に入っているので、それを違う病気に拡大させることはできますが、依然として、作製上の問題が残ります。


■5年後の視細胞の移植に意欲

―ヒトiPS細胞の作製から5年で、臨床研究の承認までこぎつけましたが、これから5年後の未来について、どのようなことを思い描いていますか。

 そうですね。iPS細胞の作り方については、だいぶ決まってくるかなと思います。それほど大きな変化はなさそうです。変わり尽くすというか、出そろっているのかなと。でも、それ以外の部分は、ものすごく変わっている可能性があります。


 18年をめどに、視細胞の移植の1例目をやりたいと思っています。それには大きな意味があって、色素上皮というのは網膜の一部なんですが、神経ではないんですね。皮膚と同じように、ペタンと張るという治療です。網膜をドーム状に水膨れさせて、網膜と眼球の壁の間に、シート状の細胞を入れ込むんです。網膜に穴を開けて、そこからチューブで注入するイメージです。その後、水膨れの状態を戻すと、ペタンと引っ付いて動かなくなる。


 これに対して視細胞は、網膜の中の神経に当たります。視細胞もシート状にして移植するので、その点は同じなんですが、ペタンと張っただけでは駄目で、神経の回路、ネットワークを回復させなければならない。上の網膜の神経とつなげる必要があるので、かなり難しいことなんです。臨床研究が実現すれば、中枢神経再生の最初の治療になると思うので、ぜひ成功させたい。科学的に、ものすごく画期的なことですから。


―今年夏の移植手術は、その実現のための前段階になりますね。新年の抱負をお聞かせください。

 まず、臨床研究を絶対に成功させること。そして、視細胞の移植に向け、準備をしっかりと進めたいと思っています。


―最後に、医療関係者の方にメッセージをお願いします。

 「お騒がせして申し訳ない」というのが、正直なところです。特に眼科の先生方には。患者さんから「iPSで治療ができますか」という問い合わせがあると、全国の先生方から伺っていますから。ただ、iPS細胞を治療で活用できるようになるまでには、最低でも10年はかかる。それぐらいたつと、医療の変革が訪れるでしょう。20年後には「絶対に変わっている」という確信はありますが、10年後でも状況はだいぶ変わっていると思います。
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