少子高齢化の影響で不動産の入居率が低下し、不動産が遊休資産化する現象がますます深刻化している。そうした状況を打開する方法の1つとして、不動産をシェアハウス化するオーナーが近年増えている。大手不動産業者の調査では、この8年でシェアハウスは26倍に増えているといい、特に東京では人気だ。
シェアハウスは、複数の入居者がそれぞれ個室を持ち、キッチンやリビング、バス、トイレなどの設備を共用しながら暮らす共同住宅だ。似たような言葉として「ゲストハウス」というのもあるが、こちらは主に旅行者などが対象の短期滞在用だ。
日本でシェアハウスが広く知られるようになったのは最近だが、米国のテレビドラマ『フレンズ』にも出てくるように、欧米各国では昔から一般的な居住形態である。海外では若者が家庭から離れて自立する際、日本のようにワンルームマンションや1Kアパートなどを借りるのではなく、同年代の何名かが共同でマンションや一戸建て住宅を借りるケースが多い。兄弟や親しい友人同士で住む「ルームシェア」に対し、外部の事業者により管理・運営され、まったくの他人同士が住む施設を「シェアハウス」と呼ぶ。
シェアハウス事業の具体的な方法は、専有面積60〜100平方メートル以上の物件をオーナーからできるだけ安く借りて、1物件に10人以上住めるようにリフォームして、貸し出すという流れになる。「入居者からもらう家賃」から「オーナーに払う家賃+運営にかかる経費」を差し引いた分が利益となる。業者は、物件の確保から内装の工事、入居者集客、物件管理と、運営物件に関わることは上流から下流まで全業務を担当することになる。自社物件を買うのはリスクが大きいため、オーナーからサブリースした物件をシェアハウス化するというのがミソだ。物件を安く借りるには、古い物件のほうが好都合で、築30年でも40年でも問題はない。どんなふうにリフォームするかというアイディアこそが勝負である。独自性のあるシェアハウスに人気が集まるのが最近のトレンドだ。
例えば、昨年7月、東京・港区元麻布にオープンした「元麻布農園レジデンス」はその格好の例だ。元麻布といえば、山手線の真ん中に位置し、古くから東京有数の高級住宅地として有名だが、そこに農園がついたシェアハウスがある。玄関を出ると畑が広がり、毎朝水をやって成長を見守りながら育てた有機野菜は、住人みんなで食べている。ここは以前、外国人向け住宅で、4世帯が住んでいた建物だった。それが17部屋と36畳のコミュニティラウンジにリフォームされた。自然とのふれあいを取り戻すこと、そして、地域交流の拠点となるシェアハウスをコンセプトとしており、近隣の子供たちが野菜づくりを体験できる『キッズ土育』やバーベキューパーティーなど、さまざまなイベントを開催している。
●独特な運営ノウハウが必要なシェアハウス
シェアハウス事業を展開しているのは中小の不動産関連企業やベンチャーが多く、どちらかといえば大手が参入しにくいニッチな市場である。その理由は、シェアハウスの管理・運営およびテナント募集には独特なノウハウが必要であり、一般賃貸より確実に手間がかかるからだ。よって、シェアハウスを扱ったことのある業者はほんのひと握りというのが現状だ。
シェアハウスの「バウハウス」シリーズを東京・横浜の5カ所で運営する大関商品研究所は、業界では有名な会社で、もともとは店舗設計・プロデュースなどを手がける会社である。いずれのシェアハウスも、中古住宅をリノベーションした個性的な空間が特徴だ。
例えば、「バウハウス南千住」は、以前は社員寮として使われていた築30年以上の典型的な和風木造建築。室内はアンティーク調の装飾が施してあり、和洋折衷の「大正浪漫」、あるいは昭和の風情ともいうべき佇まいになっている。8月末現在、12ある部屋はすべて満室だった。空き部屋が出て募集を出すと、すぐに埋まるという。同社の担当者は、このビジネスについて「古いものを生かしながら、いかに付加価値をつけて新しい形にするかがポイント」と語る。
入居者間のトラブルは、まったくない。管理・運営の秘訣の1つは、入居希望者に対し行われる面接だ。最低限のルールを守って共同生活できる人しか、入居を認めていない。例えば、使った食器は洗っておくとか、食料や調味料などの私物は個人のロッカーに入れておくなど、キッチンのような共有スペースでは最低限のマナーがある。また、外から友人が遊びに来る際は、リビングに置いてある連絡用ノートにあらかじめ書いておくのもルールだ。入居希望者の人物像を見極める目が、大きなポイントになるのである。
シェアハウスの管理・運営に慣れていない業者が、一般賃貸の部屋貸し気分で安易に始めると、入居者間やシェアハウス内でトラブルが起きる可能性もある。管理が悪いとゴミが散乱して不衛生になったり、設備が壊れるなどして、結果的に入居者が居着かなくなり、物件の資産価値も下がってしまう。適切なルールを設け、こまやかに気を配れる管理体制が必要というわけだ。シェアハウス運営会社の中には、自社の社員が管理人兼務で物件に住んでいる例も少なくない。
●メール世代が求めるリアルなつながり
不動産のオーナーにとって、物件をシェアハウス化するメリットは、アパートやマンションよりも入居率が高いということに尽きるが、入居者から見たメリットは何か?
シェアハウスの入居者層は、どこも女性が圧倒的に多い。約7割が女性という統計もある。男性に比べてテリトリー意識が低く、他人との共同生活に抵抗感が少ないということだろうか。男性よりも一人暮らしの危険性が高いので、大勢で暮らしたほうが安全と考える女性が多くても不思議ではない。また、都会で娘を一人暮らしさせる親にしてみれば、シェアハウスのほうが安心なのはまちがいない。年齢的には、男女問わず、20代前半〜30代前半で全体の8割強を占めているらしい。
一般的にシェアハウスの魅力として、「費用が安い」「入退去が簡単」「コミュニケーションが広がる」「一人暮らしより安心感がある」などが挙げられる。冷蔵庫や洗濯機、キッチン用品などが共同で使用できるために準備する必要がなく、それだけ初期費用がかからないのは事実だが、月々の家賃は、実はそれほど安いわけではない。前述した「バウハウス南千住」は、4畳半と6畳の部屋があり、家賃は部屋によって57,000円〜82,000円と異なる。この界隈のワンルームマンションの相場と比べて決して安いわけではないのだが、それでも満室状態が続いているのは、運営会社が生み出す「付加価値」の魅力なのだろう。
取材したとき、「元麻布農園レジデンス」の入居者の1人は「震災以降、生活空間が閉じられた中で不安を感じるようになった。会社や家族以外のコミュニケーションが気持ちいい」と言っていた。おそらく、震災はきっかけの1つに過ぎないのではないかと筆者は考える。人間関係が希薄なインターネット全盛の時代、潜在的な寂しさを抱える若者は少なくないに違いない。20代の若者は、用件はなんでもメールで済ませる世代だが、だからこそ本当はリアルなコミュニケーションを求めているのだろう。
シェアハウス入居者の勤務先の業種は、「通信・ITソフト開発」が比較的多くて全体の2割強だという調べもある。プログラミングのような仕事をしていたら、家に帰ってきたときに、誰かと話をしたくなるのは容易に想像がつく。時代が“個”に向かえば向かうほど、シェアハウスの人気が高まるのかもしれない。
(文=横山渉)
シェアハウスは、複数の入居者がそれぞれ個室を持ち、キッチンやリビング、バス、トイレなどの設備を共用しながら暮らす共同住宅だ。似たような言葉として「ゲストハウス」というのもあるが、こちらは主に旅行者などが対象の短期滞在用だ。
日本でシェアハウスが広く知られるようになったのは最近だが、米国のテレビドラマ『フレンズ』にも出てくるように、欧米各国では昔から一般的な居住形態である。海外では若者が家庭から離れて自立する際、日本のようにワンルームマンションや1Kアパートなどを借りるのではなく、同年代の何名かが共同でマンションや一戸建て住宅を借りるケースが多い。兄弟や親しい友人同士で住む「ルームシェア」に対し、外部の事業者により管理・運営され、まったくの他人同士が住む施設を「シェアハウス」と呼ぶ。
シェアハウス事業の具体的な方法は、専有面積60〜100平方メートル以上の物件をオーナーからできるだけ安く借りて、1物件に10人以上住めるようにリフォームして、貸し出すという流れになる。「入居者からもらう家賃」から「オーナーに払う家賃+運営にかかる経費」を差し引いた分が利益となる。業者は、物件の確保から内装の工事、入居者集客、物件管理と、運営物件に関わることは上流から下流まで全業務を担当することになる。自社物件を買うのはリスクが大きいため、オーナーからサブリースした物件をシェアハウス化するというのがミソだ。物件を安く借りるには、古い物件のほうが好都合で、築30年でも40年でも問題はない。どんなふうにリフォームするかというアイディアこそが勝負である。独自性のあるシェアハウスに人気が集まるのが最近のトレンドだ。
例えば、昨年7月、東京・港区元麻布にオープンした「元麻布農園レジデンス」はその格好の例だ。元麻布といえば、山手線の真ん中に位置し、古くから東京有数の高級住宅地として有名だが、そこに農園がついたシェアハウスがある。玄関を出ると畑が広がり、毎朝水をやって成長を見守りながら育てた有機野菜は、住人みんなで食べている。ここは以前、外国人向け住宅で、4世帯が住んでいた建物だった。それが17部屋と36畳のコミュニティラウンジにリフォームされた。自然とのふれあいを取り戻すこと、そして、地域交流の拠点となるシェアハウスをコンセプトとしており、近隣の子供たちが野菜づくりを体験できる『キッズ土育』やバーベキューパーティーなど、さまざまなイベントを開催している。
●独特な運営ノウハウが必要なシェアハウス
シェアハウス事業を展開しているのは中小の不動産関連企業やベンチャーが多く、どちらかといえば大手が参入しにくいニッチな市場である。その理由は、シェアハウスの管理・運営およびテナント募集には独特なノウハウが必要であり、一般賃貸より確実に手間がかかるからだ。よって、シェアハウスを扱ったことのある業者はほんのひと握りというのが現状だ。
シェアハウスの「バウハウス」シリーズを東京・横浜の5カ所で運営する大関商品研究所は、業界では有名な会社で、もともとは店舗設計・プロデュースなどを手がける会社である。いずれのシェアハウスも、中古住宅をリノベーションした個性的な空間が特徴だ。
例えば、「バウハウス南千住」は、以前は社員寮として使われていた築30年以上の典型的な和風木造建築。室内はアンティーク調の装飾が施してあり、和洋折衷の「大正浪漫」、あるいは昭和の風情ともいうべき佇まいになっている。8月末現在、12ある部屋はすべて満室だった。空き部屋が出て募集を出すと、すぐに埋まるという。同社の担当者は、このビジネスについて「古いものを生かしながら、いかに付加価値をつけて新しい形にするかがポイント」と語る。
入居者間のトラブルは、まったくない。管理・運営の秘訣の1つは、入居希望者に対し行われる面接だ。最低限のルールを守って共同生活できる人しか、入居を認めていない。例えば、使った食器は洗っておくとか、食料や調味料などの私物は個人のロッカーに入れておくなど、キッチンのような共有スペースでは最低限のマナーがある。また、外から友人が遊びに来る際は、リビングに置いてある連絡用ノートにあらかじめ書いておくのもルールだ。入居希望者の人物像を見極める目が、大きなポイントになるのである。
シェアハウスの管理・運営に慣れていない業者が、一般賃貸の部屋貸し気分で安易に始めると、入居者間やシェアハウス内でトラブルが起きる可能性もある。管理が悪いとゴミが散乱して不衛生になったり、設備が壊れるなどして、結果的に入居者が居着かなくなり、物件の資産価値も下がってしまう。適切なルールを設け、こまやかに気を配れる管理体制が必要というわけだ。シェアハウス運営会社の中には、自社の社員が管理人兼務で物件に住んでいる例も少なくない。
●メール世代が求めるリアルなつながり
不動産のオーナーにとって、物件をシェアハウス化するメリットは、アパートやマンションよりも入居率が高いということに尽きるが、入居者から見たメリットは何か?
シェアハウスの入居者層は、どこも女性が圧倒的に多い。約7割が女性という統計もある。男性に比べてテリトリー意識が低く、他人との共同生活に抵抗感が少ないということだろうか。男性よりも一人暮らしの危険性が高いので、大勢で暮らしたほうが安全と考える女性が多くても不思議ではない。また、都会で娘を一人暮らしさせる親にしてみれば、シェアハウスのほうが安心なのはまちがいない。年齢的には、男女問わず、20代前半〜30代前半で全体の8割強を占めているらしい。
一般的にシェアハウスの魅力として、「費用が安い」「入退去が簡単」「コミュニケーションが広がる」「一人暮らしより安心感がある」などが挙げられる。冷蔵庫や洗濯機、キッチン用品などが共同で使用できるために準備する必要がなく、それだけ初期費用がかからないのは事実だが、月々の家賃は、実はそれほど安いわけではない。前述した「バウハウス南千住」は、4畳半と6畳の部屋があり、家賃は部屋によって57,000円〜82,000円と異なる。この界隈のワンルームマンションの相場と比べて決して安いわけではないのだが、それでも満室状態が続いているのは、運営会社が生み出す「付加価値」の魅力なのだろう。
取材したとき、「元麻布農園レジデンス」の入居者の1人は「震災以降、生活空間が閉じられた中で不安を感じるようになった。会社や家族以外のコミュニケーションが気持ちいい」と言っていた。おそらく、震災はきっかけの1つに過ぎないのではないかと筆者は考える。人間関係が希薄なインターネット全盛の時代、潜在的な寂しさを抱える若者は少なくないに違いない。20代の若者は、用件はなんでもメールで済ませる世代だが、だからこそ本当はリアルなコミュニケーションを求めているのだろう。
シェアハウス入居者の勤務先の業種は、「通信・ITソフト開発」が比較的多くて全体の2割強だという調べもある。プログラミングのような仕事をしていたら、家に帰ってきたときに、誰かと話をしたくなるのは容易に想像がつく。時代が“個”に向かえば向かうほど、シェアハウスの人気が高まるのかもしれない。
(文=横山渉)